”MASI 俊樹”流学55日目(さて逆ナンされた俊樹は如何に)

「あなた、英語は話せる?

うん。

「よかった。どこからきたの?」

日本から飛んできて、スコットランドからトルコまで走るんだ!

「すごいわね!! ところでポーランド語は何か話せる?」

うん ! ちょっと待ってくれ!

と言って、メモを取り出しながら挨拶の言葉を読み上げる。
 
すると、すごいすごい!と喜んでくれた。
 

ひとしきり話したあと、ほんの少しの沈黙を挟んで連れの女の子とポーランド語でなにやら話し出した。

ものすごく早口で全く何をしゃべったのかわからなかった。
 
話終えると、

「あなた今日はここで寝るつもり?」

と訊いてきた。

ちょうどいいベンチが並んでるし、ここは居心地がよさそうだねと答えると

「まあとりあえずウチでお茶でも一杯いかがかしら」とうれしいお誘いが。
 
二つ返事で行くといい、三人で広場を出た。


 
英語すごい上手だけど、どうやって覚えたの?と訊くと、

「う〜ん、特に勉強はしなかったんだけど、聴いてるうちに覚えちゃったのよね。耳がよかったのかしら。」

といって少し笑った。

 
そいつはうらやましいねぇ。オレなんかもう10年勉強してるけどこんなもんさ。

授業とか先生が近くにいるときしか英語で話さないしね(笑)

というと、

「それ私たちも一緒よ!先生が来た時だけ英語になるよね。で、遠ざかったら小声で普通に話しちゃうの。」
 
どうやら我々は似た者同士らしい。
 
 
のんびり10分ほど走っていると、目の前にいきなり団地が現れた。

ポーランドではこういった森の中や、畑の真ん中に突如としてなんの前触れもなく団地が出現する。

近くにスーパーも駅もないのに。
 
 
2人は姉妹で、話している方はカロリーナ、先を行く方はアガタといった。
 
階段の前に着くと、ひょろっとしたおじさんが出現し、パパさんらしく、笑顔で迎えてくれた。
 
MASIを停め、家に上がらせてもらうと日本の団地とそっくりな間取りで、きれいに片づけられていた。
 

お母さんも現れ、約束通りにまずはお茶をいただく。

お茶をすすりながら話をしていく。

家族で英語を話せるのはカロリーナだけで、彼女一人が通訳になって会話をしていった。
 
お父さんはフランスで働いているらしく、こっちの方がわかるだろうとフランス語で話してくれるのだが・・

やっぱりぜんぜんわかりません(笑)

 
なにか食べる?と聞かれたので、遠慮なくごちそうになることに。
 
最初はパンとハムと果物をいただく。
 
それらを食べ終わると、お母さんが早口で何か尋ねてくる。

ん〜、何を言っているんだろう?と考えながらもう一度繰り返してもらう。

今度は身振り手振りが加わった。
 
どうやらもう少し食べる?的なことを訊いているようだ。
 
言葉の合間を縫って、「タク(はい)」と答えると、また何かを作り始めてくれた。

それを見ていたカロリーナは嬉しそうに、トシキはポーランド語が分かるようになってきたのね!と言った。
 
さっぱりわからんけどね☆
 
 
次に出てきたのは、見た目普通のロールキャベツ。けどポーランド伝統料理らしい。

とりあえず食ってみると、中は肉だけでなくなにか別のものが入っていた。
 
なにこれ?うまい!
 
というと、「そうでしょうそうでしょう。だってお米が入っているんだもの。」
とのこと。
 
へぇ、主食のコメも西洋に来たらこういう使い方をするのか。
 
 
最後に、コンソメスープにオリーブオイルとパスタを入れたスープをいただいて食事を終えた。

その後も話していると、日はとっくに暮れてしまい、いつの間にか夜が訪れていた。

      おっと俊樹、久々のお泊りか?

 
「もう遅いから、うちの畑でキャンプして、明日の朝、ご飯を食べて出発しなさいよ。」

うれしい一言をいただいた。

     「うちの畑」? 外か? マジ!

そうだよな娘さん二人だもんな〜
                                そうだな、俊樹は外で間違いなし!

 
最後に写真を撮ろう!ということになって、カメラが向けられたので、ちょっと待ってくれ!ヘアーを直してくる!というと一同爆笑。
どうせ撮るならイケメンに映りたいもの。
 
途中帰宅してきた弟くんをカメラマンに家族と写真を撮る。
 55−11

そして、姉弟そろって畑まで案内してくれた。

外は昼間の熱気がうそのようにピンと張りつめた冷気を帯びていた
 
弟君はオレのチャリを押してくれ、なにこれ!?くっそ重い!!とびっくりしていた。
 
畑までの道中、カロリーナに、あの時なんで話しかけてくれたの?
と訊ねてみた。

すると彼女は、「だって、最初にすれ違った時、あなた笑顔だったんだもの!」
と言った。
 
そうか、笑顔か。笑顔ってだいじだなぁ、こうしていい出会いにつながったし。
 
そんなことを言いながら、畑に着き、ライトで照らしてもらいながらテントを設営。

またあしたといって別れた。


 
みんながいなくなったあと、何気なく空を見上げてみた。
 
すると、そこにはいまだかつて見たことない、プラネタリウムさえちゃっちく見えてしまうような、満天の星空があった。
 
思わずすげぇ!と声を上げる。


大小、無数の星が真っ暗な夜空を埋め尽くし、それぞれが明滅を繰り返す。

天の川は色濃く流れ、これなら織姫と彦星も出会えるなとうなずいた。
 
借りたマットを地面に敷き、寝袋に包まって夜空を眺め続けた。

気温は10度を下回っているようだった。夜露がすぐに体を濡らした。


 
白い息と星空に見とれながら、今日の出来事を思い浮かべる。

偶然出会った人に、こんなにも良くしてもらった。

そして、こんなにも美しい星空を見ることができた。

自分は、なんて幸せなんだろう。

旅をしていてよかった。

これからも、もっと走って、出会って、笑いたい。

そう思った。
 

繰り返し吐き出される白い息とは裏腹に、心はいつまでもあったかかった。
 
(55日目 走行距離98.54km)